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そのキスの代償は……
第12章 その後の二人
久々に楽しいと思える時間を過ごしたのに…

それなのに今、さっき止められた缶ビールを握り締め、目の前には…

ホテルの忌々しいドア。

そう、とうとうここまで来てしまった。


改めて、自分自身に吐き気がした。

それは奥様への罪悪感ではなく自分が人として

どうしようもない所へ落ちていく醜い生き物のようで…

それでも…

意を決して、半ば投げやりでドアをノックした。

そう、これなしで私は生きられないのだから…


コンコンコンコンと4回。

しばらくしてガチャっという音がして、

内側からコンコンコンコンコンと5回ノック音がする。

それは変わらないいつものあの人とのサインだ。

私は踏み込むまでの時間、何度も何度も繰り返し深呼吸をした。


それから、手に持つビールのプルタブを開け、一気に飲み干した。

ここからは演者。あの人をどう想っていたかなんて…

もう忘れた。所詮男なんて、誰でもがこんなもの。

自分勝手で利己的な生き物。だから…

利用してしまえばいい。

失ったものがあったとしても、その分を補えるものを奪ったらいい。

アルコールが急激に回り始め、視界が揺らめく。

私はその境目を超えるべく、ドアを引き中に一歩足を踏み入れた。
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