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恋のリサーチ
第1章 突然・・


その男は突然声をかけてきた。

あの、とか、すみません、とか

なんの前ふりもなく、こう言った。



「おねえさん、小説家かなんかなの?」



その瞬間ビックリさが肩を持ち上げた。

ぽかんと口を開けたまま顔をあげると、

またしてもなんの断りもなく

男は私の前に座った。

私のバッグが置いてある、向かい側の椅子に

ドサッと体をあずけて座る。


・・ちょっと!バッグがつぶれちゃう!・・


頭の中ではそう叫んでいるのに

実際には声が出なかった。


相手には私の感じているストレスは

まったく伝わっていないようで、

ニコニコと笑顔をつくって私を見ている。



「ほら、いつもそうやってなんか書いてるじゃん」



男はあごでピンクの手帳を指す。


テーブルの上にひろげられた、掌よりも少し大きい

ピンク地に細かい花柄の、100円ショップで買った手帳。

その横にはこれまたピンクのボールペンと幅の細い眼鏡。



確かに・・

私は毎朝出勤前にこのカフェで

コーヒーをすすりながら小説を書いている。

でも彼の言うような小説家、ではない。

物書きになれたらいいな、と夢見ている

普通の女だ。

少々歳もいっている普通の女・・



「いえ・・そんなんじゃないです、これは」



見ず知らずの男に言い訳をしながら

手帳を閉じようとすると、

サッと私の手から奪い取ってペラペラとページをめくりだした。



「あの、ちょっと!」



反射的に身を乗り出し手を伸ばし、

男の手から大事な手帳を取り戻す。

その素早さはさっきの彼と同じくらい、

機敏な動きだった。


奪還されて、掴むものがないのにつかんでいる形の

男の手のひらは、

中途半端さを恥ずかしがるようにひらひらとふられ、

テーブルの上へと降りていった。

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