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第41章 山下紗英になること

なんだか少し悲しくなって

とぼとぼと車に戻る。


根岸さんが黒塗りの車の前で待っていた。


「ご用はお済みですか？若奥様」


「ええ、まぁ」


私を後部座席に促し自分も隣に座る。


車は静かに動き出した。


「女将に追い出されましたかな？」


根岸さんは優しい表情で私の顔を見た。

「はい...」


「紗英さんはご結婚後すぐにスペインで暮らされたので分からないかもしれませんが、山下財閥の若奥様になられるというのは大変なことです。

　お隣の可愛い紗英ちゃんのままではいられないのです。

　大丈夫です。少しずつ知ってください。

　私もお手伝いさせていただきますから」

根岸さんが優しく微笑んでくれた。


久しぶりの帰国だというのに気が滅入ってしまった。
結婚て大変なことなんだ。
ただ好きな人と夫婦になる。

そんな単純なことじゃない。

なんだかこれからを考えると溜め息が漏れた。


何も教えてくれなかった直哉さんを少し恨めしく思う。