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BAR・エロス
第26章 ママ・梓・・
「どう?似合う?」
着替えを終え控室から出ると
背を向けていた紫苑に声をかけた。
振り返った紫苑は
少し目を見開いていた。
ゆっくりと、
視線を顔から足もとへと移していく。
「きれいだよ、梓ママ。
とってもきれいだ・・」
彼のもとへと歩を進めるたびに、
シフォンの生地は
足にまとわりつきながら、
それでも流れるように波を打つ。
「このドレス、
幸子ママからのプレゼントなのよ」
裾を揺らしながら
くるりと体をひねり、
後姿も見てもらう。
しばらくは手持ちのワンピースを着ることにしていたが、
デビューの日はこのドレスで、と
幸子ママが選んでくれたのだ。
「そう、よく似合ってる。
さすが幸子ママ、梓さんの雰囲気を
よくわかってるよ」
カウンターの内側から出てくると
開店前で
誰もいないことをいい事に、
私の腰をぐっと引き寄せた。
それからキスをした。
まるでスローモーションのように、
紫苑の唇が触れるまでが長く感じた。
激しくはないが
離れたくないと思わせるほど
彼の唇は優しく動いた。
余韻を楽しむかのように
ゆっくりとその唇を離すと、
「ここからが本当のスタートだよ。
僕がしっかりとあなたをサポートしていくから。
バーテンとしても
男としても・・」
そう語りかけてくれた
紫苑の瞳の透明さに、
私の心は
再び動いた。
この人と・・
恋に落ちてみよう、と・・
「よろしくお願いします。
私を支えてください。
ママとしても
女としても・・」
「それって・・」
表情を固めた紫苑とは対照的に
私はゆるみたるんだ口元を引き締めながら
彼の腕から抜け出ると、
あの重い扉へと歩いていく。
ドアの前で紫苑を振り返る。
「さあ、そろそろ開店の時間ですよ。
プレート、換えてきますね」
開けると初夏のほんのりと温かい風を感じた。
暗い中でさわさわとゆらめく緑の葉を見上げてから、
ドアに掛けられているプレートを手に取った。
OPENの文字の下にキラキラ輝く
BAR・EROSの文字を指でたどる。
初めてこの扉を開けた
あの日と同じように・・