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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで
(この人は……)
わざとらしく目をパチパチさせる美伊奈に内心呆れてしまう。
スッと手を外すと、大袈裟に息をする。
「人工呼吸して?」
艶っぽく冗談まで言う。
「君博にしてもらいなよ」
つい言ってしまってから椎名はしまったと思った。
「君博?」
三音低くなった美伊奈の美声が私を責める。私は謝罪のチャンスだと自分を奮い立たせる。
「誰それ」
しかし美伊奈の口からはとんでもないことを発した。
一瞬聞き間違いかと錯覚する。
「だから、君ひ……」
「瑠衣のバンドメンバー?」
上目遣いで言う彼女から嘘の匂いは漂ってこない。
むしろ、昨日の全てが私の夢だったんじゃないかと納得しそうになる。
「いや、何でもない」
「なぁに、挙動不審ね」
やっと要件を思い出し、私は星模様の袋を美伊奈に手渡す。
「賄賂」
冗談ぽく言うと、彼女もそれに乗る。
「主も悪よのう」
「貴方ほどでは」
そこで同時に噴き出す。
「バカだぁ……あたしたち」
「美伊奈、声ハマりすぎ」
笑いながら中身を見て、美伊奈は意外そうに目を見開いた。
お菓子だ、と呟きながら箱を開ける。
教室という場にはそぐわない香りが広がった。
「モンブランだ」
にまぁっと笑みが浮かぶ。
「本当に賄賂じゃん。なんの賄賂だよ」
「きまぐれ賄賂」
ご機嫌な美伊奈に私は胸をなで下ろした。
このケーキの意味など教えなくて良い。
むしろ言葉が思いつかなかった私には好都合だ。
(私たちはこうして親友できたのだ)
「ありがと」
美伊奈も何も訊かずに私の頭をクシャクシャにした。