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悪戯な思春期
第3章 王子様の刺客は忍者
 昼休み、自慢げにモンブランをつつく美伊奈を横目に私は生徒会室へ向かう。
 何が企てたか、またも雅樹に遭遇してしまった。
「ま……雅樹、おはよ」
 昨晩の口づけを思い出し、しどろもどろに言う私に彼の顔が緩む。
(こんなに笑う人だったっけ?)
 二年間殆ど見なかった雅樹の笑顔をこの数日で何回見ただろうか。
 雅樹は物理の教材を脇に抱えていた。
「おはよ、の時間じゃないだろ」
「そだね。あ、物理教わりに行ったの?」
 恥ずかしさから逃れるように私は間髪入れずに尋ねる。
 あぁコレ、と呟き雅樹は近づいてくる。
(何故に近寄る!)
 私はまだ、彼の真意を理解していなかった。
「ワークの解法が気に入らなかったからさ、先生にもっと良いのを訊きに行ったんだよ」
 優等生は隙がない。
「椎名は? また生徒会?」
 縮められた距離感に暴れる心臓を制御しながら頷く。
「何分から?」
 不意に尋ねられ、腕時計を見る。
「五十分から……だから後十ぷ……」
 言い終わる前に腕を引かれた。
 そのまま渡り廊下の先の階段を引きずられてゆく。
 幸いまだ昼休みに入ったばかりで人は殆ど擦れ違わなかった。
 数少ない目撃者も、何も言わずに通り過ぎるだけだ。
 私はなにがなんだかわからず、ただ歩調を合わせようと必死だった。
(まさか、屋上?)

 最後の一段を登りきり、小さな踊場にたどり着くと雅樹は手を離した。
 かなり強く握られていたが、跡は無い。
「……雅樹?」
 私と対照的に息切れさえしていない彼の背中を見て、そっと呼びかける。
「大丈夫?」
 反射的に出た言葉だった。
 何だか雅樹が壊れてしまいそうに見えたのだ。
 ただ立っているだけなのに。
 雅樹が顔を下目に振り返る。
 その動作の重々しさに何か恐ろしさを感じてしまう。
「大丈夫? 大丈夫じゃないよ」
 低い声だった。
 テナーとかではない。
 地の底から轟いてきそうな低い声。
「椎名」
 一言の余韻が消える前に雅樹が目の前に立っていた。
 距離感が無くなり、背中に汗が伝う。
「行かなきゃ、ね? まさ……んんっ」
 言い終える前に唇を塞がれた。
 不意打ちに緊張し、固く閉じていてもこじ開けられる。
 彼の舌が進入してきて体が強張る。
(やだ……怖い)
 拒否する抵抗も、この体格差では軽くあしらわれてしまう。
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