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悪戯な思春期
第3章 王子様の刺客は忍者
今にも風を切りそうな刃物から私は目が離せなかった。
だが、当の瓜宮はカッターなど目に入らないように此方だけを見ている。
見下している。
そうして前触れもなく言った。
「お前の顔が憎らしいよ」
「……初耳だな」
雅樹も軽く眉を上げて驚いた。
瓜宮は静かに雅樹の顔を指差す。
「天草の好みだけじゃない。僕みたいな中性の顔からしたら羨ましいんだよ。男に迫られることなんかないだろ?」
「一度も」
「だろうね。誰が瑠衣の顔を抱ける?」
私はハッとした。
瓜宮は私が雅樹に瑠衣を重ねているのを知っているのだろうか。
「顔のせいにするなよ。自分が変わればいいだろ」
「よく言うよ。僕がなんで忍者なんて言われてるんだか」
それは修行をしてるということだろうか。
瓜宮の表情は未だに消え失せていて、感情が読み取れない。
私は隣の雅樹に身を寄せた。
ふと気づいて、足も閉じる。
「蛇越だけじゃない。中学から男に口説かれてきた。初めては担任だった」
瓜宮は拳を握りしめた。
「……クズばかりだ。穢らわしくて、汚い。西雅樹、君は違うと思ったけど?」
「俺に抱かれたいの?」
「……本当に腹立たしいな。馬鹿いわないでよ」
「そう見えたから」
私は絶句した。
チャイムが鳴る。
七限目の始まりだ。
三人はスピーカーを一瞥し、また向かい合った。
「戻る気は?」
瓜宮が沈黙のあとに尋ねる。
指でカッターを転がしながら。
「ないね」
雅樹が顔を振りながら溜め息を吐く。
「質問を返す。俺らを戻す気は?」
チャイムの余韻がもったいぶって長く尾を引いた。
校舎の方から生徒達の笑い声が聞こえる。美伊奈に似た高い声も。
私は雅樹に押し倒されたままの姿勢でそれらを聞いていた。
せめてブラウスくらい着れば良かったのに。
もしかしたら、まだ続きをどこかで期待してたのかもしれない。
現実に引き戻す声が降る。
「ないね」
忍者はまるで、瑠衣とツーショットを飾った滋賀輝弘の如く自信に満ちた笑みをしていた。