この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
【SS】目が覚めたら…?
第7章 【2000拍手突破感謝】Ⅱ.王子の憂鬱
――きゃ~、Haru~。
僕を退けるあの忌まわしき歓声がなくなったと思いきや、佐伯家にはどんよりと危殆を孕んだ暗雲が立ちこめている。
ピカッ。
ゴロゴロ……。
ゴォォォォ。
外は、既に凄まじい嵐だ――。
「なあ、これからナツと三人でどこかドライブしようか。冬の景色もいいもんだぞ?」
波瑠兄、外は嵐だよ……。
「お、シズ。髪型変えたのか。それ、可愛いな」
波瑠兄、それはしーちゃんの寝癖だよ。
「シズ、お前欲しいものあるか? 特別に俺様がなんでも……」
波瑠兄、しーちゃんの欲しいものはきっと燃やしちゃったものだよ。藪蛇藪蛇!!
オンナに追いかけられても追いかけることをしたことがない波瑠兄の、引き攣った顔で笑いながらのご機嫌取りのせいで、ここ数日天候は嵐だ。
あのご機嫌取り……きっと誰かに入れ知恵されたんだろうけれど、しーちゃんにはまるで通じない。
藪蛇となる状況すら与えない。
即ち、完全無視。
そこに至る原因を辿れば、波瑠兄に告げ口した僕にある。
僕のせいで、ごめんね、波瑠兄。
僕も、まさか波瑠兄が強硬手段にでるとは思っていなかったけれど。
「なぁ……シズ……」
波瑠兄が切なそうな顔で甘えたような声を出し(あの波瑠兄がだよ!?)、その腕を引こうものなら、キッと睨み付けて、波瑠兄の手にがぶり。
情け容赦なく思いきりがぶり。
女版波瑠兄、サバンナの女帝だ。
「……悪いな、ナツ。俺……医者なのに」
「いいよ、これくらいなら僕もできるから」
波瑠兄の傷の応急処置をして、僕は救急セットの蓋を閉めた。
「はぁぁぁぁ…」
猫背でため息をつく波瑠兄。
その背中は哀愁籠っている。
包帯をしたばかりのしーちゃんの咬み痕を、すりすりと手で摩っているのは、痛みなのかしーちゃんを思ってのことか。
こんなに落込んで元気のない波瑠兄を見るのは、しーちゃんが眠った時、いやいやあのED騒動のあった時以来だろう。
いつも胸を反り返して、自信満々に前を見据えて生きる波瑠兄が、まるでお母さんに怒られたしょんぼりした小さな子供のよう。
波瑠兄、今にも死にそうだ。