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【SS】目が覚めたら…?
第28章 【ファン感謝】白雪姫 ③王子(モモ)
「……っ」
その時、ひと際大きな風が地面から巻上げるようにして吹き込んできて、あたし達は慌てて逆立つように揺れた髪を手で押えた。
内から外へ手櫛で梳くようにして髪を抑え、より露わになった男の顔には、眼鏡越し、精緻に配置された顔の部位が明瞭になった。
自己主張のない表情なのに、自己主張のある上品で清潔感漂う大人びた顔立ち。あたしを毅然と拒んだその確固たる意志とは裏腹に、翳ったような寂しげな色をちらつかせて、幼子を庇護したいような母性本能を擽られる。
矛盾を孕んだ雰囲気が、彼の神秘さをより醸しだし、男をこうだと確定する境界を曖昧にさせてしまうんだ。柔らかな人なのか硬い人なのか、それすらよくわからない。
男なのに男臭さがなく、不可解な心情を見せつけては、すぐに遮断して。表情を見せたかと思えば凍結させて、なにひとつ男のことを悟らせまいとする。
思い出という餌をちらつかせて、あたしの記憶を刺激して。そして掌を返したような拒絶。それが故意だとするのなら、彼はかなりの策士だ。
あたしは確かに当初より、彼に興味を覚えている。
いいようにされている気がして、思わずため息をつくと、男はふっと口元を綻ばせた。
それは確信犯の笑み。彼はどこまであたしを見透かしているのだろう。
その、怖いほど怜悧な瞳で。
「風が冷たくなってきた。さあ、時が来るまで、こちらの建物に」
男が指さしたところにあるのは、こじんまりとした白亜の屋敷。
それを見た時、どくっと心臓が嫌な音をたてた。
なに……?
懐かしいあのきらきらとした思い出に、皹が入っていく。
今にも弾け飛びそうな切迫感に、呼吸が苦しくなる。