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唇に媚薬
第8章 嫉妬姫

「好きだもんな~お前」

「……え?」

「高層階・夜景・オシャレ・イタリアン。
これだけ押さえりゃ文句ねぇだろ?」

「………」

「分かりやすい女」


ニヤニヤ笑いながら見下ろす葵。
……当たってるから何も言い返せないけど
改めてそう言われてしまうと、いかにもって感じで恥ずかしいな。


「同僚達とよく行くから。
誰かに会っちまうかもしれねぇけど、いい?」

「……うん」


……その、よく行く同僚達の中に
きっと、さっきの佐伯さんもいるのよね?
当然、他の女性達もいるのよね?

降りてくるエレベーターの、点滅する階数に視線を向ける葵。
その横顔を見上げて、心の中で聞いてみた。


……私、やっぱりどうかしてる。

愛の言葉を聞いて
誰よりも優先してくれて
こうして手を繋いでるというのに

さっきから、心の中を
何かが渦巻いて止まらない。


ねぇ、葵。
私だけを、見てくれてるよね…?

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