この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
唇に媚薬
第8章 嫉妬姫
「……ふーん」
驚きもせず、喜びもせず。
いつものポーカーフェイスを保ったまま、葵は私をじっと見てきた。
「変な奴」
「……!」
そういった口元が、少しだけ緩んだように見えたけど
葵は顔を前に戻して、再び歩き出す。
繋いだ私の右手を、自分のトレンチコートのポケットに入れて
ぎゅっと強く握り返してくれた。
……胸の奥が、狭くなる。
足がふわふわする。
「電車乗るの面倒だし。
せっかくこっちまで来たし、すぐそこでいい?」
「……うん」
「上の階に、ワインバーがあるから」
駅に沿うように並ぶ、葵の勤める本社ビルから2つ先の区画。
ショップやレストランが入っている、高層の商業施設に向かった。
「……こっち、あんまり来ないけど
お洒落な建物だね」
金曜日の夜ともなれば、この時間はまだ序章。
ショップは閉まってるけど、上層階の飲食フロアは朝方まで営業してるらしい。
1Fのエレベーター前には、多くの人が到着するのを待っている。