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唇に媚薬
第9章 ヤキモチ王子
エレベーターが1階に着いて、セキュリティゲートを抜けると
視力1.5の俺の両目が、淡いグリーンのコートを着た女を捉える。
一瞬疑ったけど、あのショートボブは間違いない。
5階までブチ抜いた、巨大なエントランスロビー。
観葉植物の前の大理石に蘭は座っていた。
「………」
……珍しい、な。
パステルカラーの服を着てるとこなんて初めて見た。
受付を通り過ぎて進んでいくと、その姿がはっきりと見えてきて
先取りのスプリングコートに合わせて、持っているバッグまでいつもと違う。
クールビューティーがどうとかで、寒色系しか着ない主義じゃなかったか?
つーか、それ以前に
そのパンプスもマフラーも……
「……お前、いったい何着持ってんだ?」
「………!」
「さすがアパレル。金の掛け方が違ぇな」
……普段と変わらない、いつもの口調で
至って普通の質問をしたつもりだった。
だけど
「葵、お疲……」
俺の声で、顔を上げて口を開こうとした蘭。
視線を移したその目が大きく見開き、輝いた瞬間
……その瞬間に
俺は、蓮が隣りにいることを思い出した。