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唇に媚薬
第14章 涙の先に

……一瞬で空気が変わって
ドクッと心臓が跳ねる。

佐伯の涙を間近で見ていることもそうだし
気付いていなかった何かが、俺の中で弾けた気がして

……声にならない。


「……佐伯も
俺達と同じように、ずっと瀬名を心配してたんだよ」


少しの沈黙の後
顔を伏せた佐伯の代わりに、蓮が再び口を開く。


「お前が眠れない原因は、自分の力不足なんじゃないかって悩んでた」

「………!」

「もっと優秀なアシスタントなら、瀬名を助けられるって
俺や部長に、何度も相談してたんだ」

「………」

「実際、佐伯より優秀な奴が居ないから今に至るんだけどな」


笑いながら説明する蓮から、右側に視線を移すと
下を向いたまま
蓮の褒め言葉を否定するように、佐伯は小さく首を振った。


「………」


佐伯に、不眠症の話をしたことは無い。
というより
仕事以外の会話はほとんど無かったはずだ。

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