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唇に媚薬
第7章 蓮愛相談室

……残業を減らして欲しいとか
もっと言葉遣いを優しくしてほしいとか

女子社員が言いそうな要望が来るとばかり思っていた俺。
まるで見当違いな発言をされて面食らう。


「……意図が、よく分からねぇんだけど」

「……っ やっぱりダメ、ですよね」

「いや、駄目っつーか……」


そもそも、俺初っ端何て言ったんだっけ。
出来る事あるかって聞いたんだったよな?

俺と一緒に帰ることで、佐伯の何かが解決するって解釈していいわけ?
ここじゃ言えねぇ相談とか?


「………」


真意を探ろうとして、じっと佐伯を見下ろすと
マジで泣くんじゃねぇかってくらい、震えて俺を見つめ返してくる。

……なんでそんな悲しい顔するんだよ。
調子狂うな。


「……分かった」

「………!」


他の社員が書類を持ってきたタイミングで、デスクに向き直って
今日やるべき優先事項を、瞬時に計算する。


「早くても9時だけど。いい?」

「は、はい……っ」


ホッとしたように微笑む佐伯。
仕事に戻った姿を見て、俺も安堵の溜息を漏らす。


……だけど

仕事に集中していたこの日の俺は
帰る時まで携帯の存在を忘れていた。

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