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ピンクの扉
第1章  ピンクの扉
「ほら、桃子。なかなかいい物件だろ?」
夫の智一が物件を見上げ、喜々とした声をあげた。

「どうだろう・・・ちょっと古くさい家ねえ」

「そんなことはないさ、築二十年。まだまだ現役さ。ちょいと手を加えれば、おしゃれな家になるさ。」

そんなものかしら。
首都圏から少し離れているけど、この広さで1,200万円・・・割高なんじゃないのかしら。

私的には2LDKぐらいのマンションがいいんだけど・・・
夫は、どうしても一戸建てにこだわっている。

「私はどっちでもいいよ。どうせ嫁にいっちゃえば、家とはバイバイするんだしぃ。」
娘の由佳は冷めた口調で答えた。

「ほんとに、ここに決めるの?」

「ああ、決める。夢に見たマイホームだ。これで俺も一家の主だ。」
もうこうなったら絶対に買っちゃうんでしょうねえ。

それならそれで・・・
「ねえ、リフォームのおねだりしていい?」

「おっ!お前もようやく気に入ってくれたか。」

「私がイヤといっても買うんでしょ。」

「はははっ。住めば都。きっと住みやすい家になるさ。」

「じゃあ、扉はピンクにして!」
ピンクの扉・・・私の夢。これだけは譲れない。

「ピンクぅ~?この家にその色は似合わないよ。」

「じゃあ、買っちゃダメ!」

ええ!?まいったなぁ・・・
主人が弱りきった顔をした。

「ご主人!ピンクの扉にするんなら、外壁を塗り替えさえすれば、いい家になりますよ。」
家族会議を一歩退いてうかがっていた不動産屋が口をはさむ。

「でも予算がなあ・・・」
なんとかしてよ的な眼差しを不動産屋に投げかける。

「わかりましたよ。コミコミで1,200万!これでどうです!」

「よし!買った!!」

いいの?高い買い物よ。そんなに簡単に決めちゃって!

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