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アンバランスなsweet
第21章 覚悟

『あの手紙は忘れられない……よ』
そう言ってため息を一つついた。
熊さんのため息が少し重い。
もうペンを持つ手に力が入らなかったんだろうな、
その手紙の文字は字が綺麗な亜子さんの文字の面影は無かった。
最後の方は涙でだろうか…、インクが滲んでしまっていたらしかった。
力無いものだったが命を削って書き上げたものに見えた……と、熊さんの言葉。
『最後の“忘れないで”あれが亜子ちゃんの本音だったんだろうな。
まこと。
まだ、彼女は23歳だったんだぜ!……早すぎるよ』
俺と同じ歳だった。
発病してから僅か半年。
病名が判明したところで、余命がそれでは何もなし得ることが出来ないだろう。
どうにもならない絶望的な状況のまま、駆け足で若い命が消えていったその事実。
彼女の手からすり抜けていったその細やかな幸せを思うと……あまりにも可愛そうだったんだ。
『まこと、飲もう』
俺と熊さんはそんな亜子さんのことを忍びながらビールを煽った。

