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BLACK WOLF
第2章 甘い誘拐


「お忙しいところすいません」



そこにいたのは、実家で会ったあの男だった。






「あ、いえ…」

びっくりした。

一瞬だけこの人が狼に見えてしまった。

多分、私寝惚けてる…。

しかし、会ったのはあの1回切りで、その後実家に訪ねてくる事がなかったあの男が何故私のアパートに?

「先日はすいません。あの後どうしても手が離せない事情が出来てしまって…」

そう言って私の前で頭を下げた。

「あ、いえ、そんな…!」



あの時と同じ真っ黒な髪に真っ黒なスーツに綺麗に整ったヘアースタイル。

きっとどこか大企業の社長さんとかなんだろうな。

そんな凄い人に頭を下げられたんじゃ…。


「あの、もういいですから頭を上げてください…、えっと…」

「黒埼です。黒埼 明と言います」

くろさきあきらさん、か。

…名前にまで黒が入ってるんだ。

「せめてお嬢さんにだけは挨拶をと思ってたのですが既に東京にお帰りになったと聞いて、不躾ではありますが住所を調べて足を運ばせて頂きました」

「それは、ご丁寧に。あ、ありがとうございます」


何だろう。

言葉遣いからして優しそうな紳士なのに、何故か恐い。

近づいちゃいけないような気がする。

…足が少し震えてる。



「あ、あの…私、今ちょっと忙しくて…」

本当は眠ろうとしてたくせに、嘘をついた。

今すぐ逃げたかった。

何故かはわからない。

礼儀正しくて素敵な紳士なのに、何故か恐い。






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