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あの店に彼がいるそうです
第7章 どちらかなんて選べない
「じゃあ、今は類沢さんと一緒に暮らしてんのか」
 話が早くて助かった。
 しかし、やはり突っ込まれる点は出てくる。
「なんでそこに住まなきゃなの?」
「通えばよくない?」
「だよなぁ……」
 俺もずっと悩んでいたことだよ、それは。
 つい数分前までも。
 忍が煙草を取り出したところで、拓が奪い取る。
「まだ駄目かよ」
「ナニ、忍禁煙中?」
 舌打ちをする忍を横目に尋ねる。
「こいつ、こないだ健康診断で引っかかって今週末精密検査があるんだって」
「なにそれ、大丈夫?」
 俺以外もこの二週間、事件はあったみたいだ。
 口調は軽いが、拓はきっと気が気じゃないほど心配しているんだろう。
 そういう関係だ。
「大丈夫に決まってんだろ。煙草もてめぇのが吸ってんじゃねえか」
「結果出るまでオレも禁煙禁酒だっての」
 禁酒もか。
 なるほど、いつもは缶ビールやチューハイが転がっている時間なのに部屋が綺麗な理由はそれか。
「脱線させんな。瑞希はいつ帰ってくんだよ」
 ああ。
 話題が戻ってしまった。
 口を両手で押さえてもごもごと答える。
「たぶん……借金返し終わってからだから、再来月とかかな」
「それまでずっと類沢さんとこにいんのか!?」
 みなまで言わないでほしい。
 この二人に事情を話したときから予感はしていたいたが。
 どんどん姿勢が低くなる。
「寂しくなんな」
「つーか、てめぇがシエラで働けばいいんじゃねえの?」
「あっ、名案」
「はあ!?」
 意外すぎる展開に俺が叫ぶ。
 二人はいいこと思いついた子供みたいに輝いている。
「そうだよ。オレ今仕事探してたんだ。あっでも、忍スカウトされたんだから……オレより素質あるんじゃね?」
「誰が女に媚びるかよ」
「怖いんか」
「うぜえ……じゃあ、なってやるよホスト! てめぇにだけは絶対負けねえからな」
「オレだって本気だしたら圧勝だぜ」
 大変だ。
 思考停止するほどの混乱が起きている。
 この二人は俺の話を聞いていたんだろうか、本当に。
「すとおおおおっぷ! おかしいだろっ、なんで二人がホストになんだよ」
「なんか悪いか?」
 悪いだろ。
 あれ。
 悪くないのか。
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