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あの店に彼がいるそうです
第2章 郷に入ればホストに従え
「企んでるってなにを」
 サングラスをドアポケットから取り出しつつ、類沢は尋ねた。
「企んでるように見える?」
「見えます」
「敬語似合わないねぇ」
 バカにしてるんだろうか。
「だって、なんで服を買いになんてきたりするんですか」
 彼はサングラスをかけてエンジンをかける。
「その服で接客する気だったのかな」
 突然低い声で言われると背筋に緊張が走ってしまう。
 シャツの裾を無意識にいじる。
 どこを見ればいいんだろうか。
 前を向いていると、横から視線を感じる。
 そちらを確認しても、彼の眼は逸れている。
 そういえば……。
-気に入ったよ-
 血が頭に上る。
 俺は思い出さなくても良いワンシーンを浮かべて赤面した。
 心臓が早鐘を打つ。
 平静を保とうとするが、急に車内の甘い香りや、細かな装飾全てが気になり出す。
「じゃあ……行くけど大丈夫?」
「はい?」
「だから、これから初仕事行くけど、顔色悪いから大丈夫かって」
 やばい。
 見られていたのか。
 俺は自然を装って窓にもたれる。
「暑いだけです」
「クーラー点けてるんだけどね。中に入ったら、まず篠田ってチーフに挨拶に行って。それからロッカーの端が空いてるから買った服に着替える。初日はヘルプにつけばいいから」
「類沢さんの?」
「それが良ければ」
 類沢は少し嬉しそうに笑った。
 カーブを曲がる。
 段々見慣れた場所に帰ってきた。
「そういえば、酒は」
「あんまり飲んだことはないですけど……」
「無理はしないで、早めに席を外しなよ」
「いいんですか」
「ちゃんと戻るならね」
 音を立てずに車庫入れする。
 ここは店の駐車場だろうか。
 いや、東京の歌舞伎町に駐車場あるか。
「降りて」
 慎重に買い物の袋を持って、類沢について行く。
 車庫の奥に灰色の豪壮な扉があり、淡い光に照らされる。
「靴は脱いで」
「ここで?」
「一応、家だから」
「誰の?」
 類沢はウィンクをした。
 嫌な予感がする。
 だから、ここはどこなんだろうか。
 大理石を踏みしめ部屋を進む。
 三十畳ほどのリビングがあり、ホテルのように綺麗な西欧風の家具が迎える。
「店に行くんじゃないんですか?」
「シエラは裏だから」
「裏?」
「いいから、飲み物でも飲んで」
 グラスを渡される。

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