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あの店に彼がいるそうです
第8章 一体なんの冗談だ
「僕によく似た人生を歩いてきたんだよ」
 意味が奥深い言葉。
 それからふっと笑う。
「まさか同じ歌舞伎町で働くことになるとまでは思わなかったけどね。あいつは僕の後で這いつくばるように秋倉の元から逃げてきた。キャッスルはね、本来難攻不落の城って言われてて、そこのホストになるのはシエラ以上に難しかった。そんな中、雛谷は如月紫苑と一緒に乗り込んで……トップまで上り詰めて店も手に入れた」
「デビュー当時からの仲なんですね」
「僕と篠田に似てるでしょ」
 ああ。
 確かに。
 俺は頭の中で四人を並んで立たせてみた。
「手紙が届いたのは、ホストになって二年後かな。篠田とまだ暮らしていたとき。それは……驚いたね。どうやって調べたんだろうって。だってもう十年は経っていたから」
 どんな気持ちで手紙を開けたんだろう。
 触れられたくない。
 きっと、その気持ちだけは類沢の秘密。
「彼女は僕が辞めてすぐに大学に入りなおして弁護士になった。ここがもう驚きなんだけど、僕を探すためになったらしい」
「凄いですね……」
「初めの手紙には経緯をびっしり書いてたんだけど、僕はもう関わる気はなかったから……ちょっと違うね。もう麻那姉さんと過ごしていたころの僕じゃなかったから、僕は死んだって篠田に書いてもらった。それでも信じなくてね。それから一言だけの手紙を送ってくるようになった」
 会いたい。
「シエラには、来ないんですか」
「彼女が会いたいのはホストの僕じゃないんだって。だから……尚更会えない」
 伏せ目がちに小さな声で。
 俺は少年の類沢を見た気がした。
 不安定で、今とはかけ離れた姿を。
「これからも、ですか」
 その問いに表情を変える。
 今までの空気を振り払うように。
「どうだろうね。死ぬまでにもう一回くらいは会いたいなってくらいだから。タイミングがわからないね」
 もう一つ、尋ねたいことを思い出した。
「あの、写真の隅に書いてあった1223ってどういう意味ですか」
「ああ、あれね」
 切り抜きの集合写真。
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