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あの店に彼がいるそうです
第10章 最悪の褒め言葉です
 大学の傍ら、木々に囲まれる閑静な建物。
 俺はそのガラスばりの壁面をなぞるように歩き、両開きの自動ドアから中に入る。
 大学図書館だ。
 まだ学生証は使える。
 一抹の矛盾を覚えながら俺は中に入った。
 目指すは医学書コーナー。
 携帯で調べただけでは判断をつけられそうにない。
 肝炎についてまとめられている本を何冊か持ってメディアコーナーに移動する。
 平日午前だというのにほとんど席が埋まっている。
 ふと、変な感覚に襲われた。
 私服の大学生たちが遠い。
 俺は自分の格好を思い出す。
 出勤に備えて店のスーツに上着を羽織っただけの格好を。
 初夏の温かい日差しが差す空間では、俺だけが場違いに思われた。
 ぶんぶんと頭を振ってパソコンに電源を入れる。
 こんなこと考えている場合じゃない。
 忍のことだけに集中しなくては。
 本のひとつを手に取り、目次から目当ての章までパラパラと捲る。
―劇症肝炎の特徴。元来健康な人間に全身のだるさ、吐き気、食欲不振などといった急性肝炎と同じ症状が現れ、それから八週間以内に肝性脳症が見られ、血液中の凝固因子が著しく低下した場合を劇症肝炎と診断します。肝細胞はもともと増殖する能力に富んでいるために、急性肝炎の多くは肝細胞が砕壊されても肝再生と言われる能力で自然に元の状態に戻ります。だが、劇症肝炎ではこの破壊が広範囲に渡るために、肝細胞の増殖が障害されて、適切な治療を行わないと高頻度に死に至ります。―
 パタン。
 読み終わると同時に無意識に閉じた。
 全身のだるさ。
 拓から聞いた話と重ねる。
 凝固因子?
 肝再生?
 なんだよソレ。
 聞いたことねえよ。
 肝性脳症。
 それがサインになるのか。
 索引欄からそれを引いてみる。
 大循環系だの門脈だの酵素欠損症だのよくわからない専門用語が並ぶ中目についたのは、意識障害という項目だ。
 突然倒れた忍は?
 これに当てはまるのか?
 予兆?
 もう始まってんのか。
 確実なのか。
 そもそも。
 全部全部、嘘なんじゃねえの。
 ああ、だめだ。
 俺が投げてどうする。
 耳の上をぐりぐりと親指で揉みながら光る画面を見上げてマウスを動かす。

 
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