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あの店に彼がいるそうです
第10章 最悪の褒め言葉です
―劇症肝炎 手術―
 タン、とエンターキーを押す。
 生体肝移植。
 拓が言ってたっけ。
 だがドナー提供の欄を見て愕然とする。
 日本の指針では六親等以内が条件だというのだ。
 俺は忍の家族構成を脳内で甦らせる。
 父親のわからない状況で産み落とされ、母親とは高校入学時点で縁を切った、と。
 兄弟はいない。
 幼少期共に住んでいたという祖父母はとっくに他界している。
 忍には、親族がいないのだ。
 ならば必然的に脳死肝移植の方になってくる。
 まずレシピエントとして登録をして、待機患者になって、それで……
 頭が熱い。
 俺はいったい何を調べてんだ。
 余りに非現実的すぎる。
 それから費用についても調べてみる。
 鵜亥が妙に強調していたのが嫌な予感ばかり駆り立てる。
 重症患者として公費による保険適用はぼんやりと聞いたが、調べてみると高額な負担があることに変わりはなかった。
 しかも生体肝移植と違って臓器の搬送費に医師の派遣費が別途にかかってくるという。
 ため息を吐いて椅子にもたれる。
 つまり数百万は避けられない。
 それに……
 今度は臓器移植の過去実績を検索する。
 日本においては倫理上の問題も相まって生体肝移植が主流で、脳死肝移植は年間でも百件にすら満たない。
 なら、どこの病院が……
 タンタン。
 キーボードで何度も言葉を変えながらサイトを次々に開く。
 瞬きもせずに飽和する情報の中で必要なものを探す。
 海外?
 派遣するのか搬送されるのか。
 今の忍の容態に合わせるなら?
 一つを考えると問題が十になって襲ってくる。
 トントン。
 靴で床を断続的に叩く。
 なんでこんなにヒットするくせに欲しい情報がすぐに出てきてくれないんだ。
 画面を殴りたくなるようなイラつきが走る。
 それから半時間ほどして、俺はパソコンを切って図書館から出た。
 無知より少しはましになった。
 その程度だ。
 地面を蹴りながら新宿に向かう。
 どうすりゃいい。
 ポケットの中の名刺をぎゅっと握りしめる。
 類沢さんに相談。
 まずはそれから始めよう。
 でも、なんて?
 ああ、くそ。
 頭が痛い。
 なんでこんなことに。
 そんな無為なことばかりが頭を占める。
 こんな時、だれを頼るのが一番全うなんだ。
 誰かそれを教えてくれ。
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