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あの店に彼がいるそうです
第10章 最悪の褒め言葉です
わしわしと頭を撫でられる。
俺はそれすらもびくっとしてしまったが、見上げた類沢はもう冷たい眼はしていなかった。
「疲れたでしょ。もう休もうか」
ああ。
泣きそう。
熱くなる眼頭に顔を歪めて耐える。
「すみません……」
「謝んなくていいよ。僕はちょっと篠田と電話するから先に寝ててくれる?」
類沢は携帯を取り出しながら言った。
「はい……」
「返事」
「はい」
俺は急いで寝室に入った。
ベッドに横たわって深く息を吐く。
まだ心臓が落ち着かない。
怖かった。
あんな表情、自分に向けられたのは初めてだった。
初めて会った日、事務所に呼び出された時も優しい笑みを崩さなかった類沢だったから。
ああ。
もう。
バカすぎる。
なんで俺ってこんななんだ。
枕を抱きしめて横向きになる。
隣の部屋から低い声が断続的に聞こえたけど、何をしゃべっているかまでは聞き取れなかった。
何を……
俺には知る権利もないのに。
―都合のいい保護者じゃない―
そうだ。
その通りだ。
俺は勘違いしすぎなんだ。
前までは姿を見かけることさえなかった他人。
店でも遥か上にいる№1ホスト、類沢雅。
あまりに近しく思ってしまったから。
目をぎゅっと閉じる。
俺ってなんなんだろう。
ふと浮かぶ。
ただの居候?
借金を返すだけの厄介者?
違う。
今までのことを思い出す。
違う、絶対。
でも……
聖の一件が蘇る。
あそこまで俺のために動いてくれたんだ。
なのにその恩を更に求めたんだ、俺は。
寝れるわけがない。
謝ればいいのかもわからない。
深く布団を被る。
首まで。
抱きしめてほしかった。
安心させてほしかった。
でもこれも、甘えなんだろう。
明日の昼に、俺は何を聞かされるんだろう。
―お金の工面で困りましたら……―
鵜亥の声が鼓膜の近くで聞こえた気がした。
ばっと身を起こす。
いや、でも……
顔を覆って呼吸をする。
頼るべきか。
闇の中で目を開く。
キャッスルの闇医者。
どこまで信用していい。
どこまで、利用していい。