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あの店に彼がいるそうです
第2章 郷に入ればホストに従え
 その後の料理はミシュランだけあって未知の味ばかりだった。
 そういえば、イタ飯は余り食べない。
 河南が嫌いだからだ。
 パフェは好きなくせに、ピザとかスパゲティとなると一切口にしない。
 聞けば兄はイタリアンが得意だというのに。
 一口サイズのハンバーグを噛みながら、そんなことを考える。
 キノコのクリームソースが中から沁みだし、濃厚な甘みが広がる。
 美味いなぁ。
「ロジャーグラート、シンデレラを頼みたい」
「シンデレラ?」
「そ。瑞希にお祝いのカクテル」
「カクテル、ねぇ」
 マスターは控えめに笑う。
「ロジャーグラート2つの方が良いんじゃないか?」
「いや、店でドンペリもあげたから」
 なるほど、と呟いてマスターがカクテルを作りにかかった。
 香りからしてフルーティーな。
 これ、カクテルか。
「オレンジ、パイン、レモンを混ぜて作るカクテルでね。流石にサンドリヨンと呼ぶ人はいない。一夜にしてホストになった瑞希に相応しいかなって」
「ジュースじゃないですか!」
「一緒にしないで欲しいね」
 マスターが不満そうに口を挟む。
 俺はすぐに謝った。
 作ってる人の前で失礼だ。
 類沢は鼻で笑った。
「彼女に奢ったりしないの?」
 河南のことか。
 彼女とは気づいてるよな。
「……酒弱いから」
「二人とも」
「俺は普通です」
 ムッとしてしまう。
 だが、店で一切顔を赤らめもせずボトルを空ける類沢には何を言っても悲しくなる。
「強くなりたいです……」
 類沢は一瞬目を見開いてから、可笑しそうに肩を震わせて笑った。
「慣れるよ、そのうち」
「類沢さんは元から強かったんですか?」
「誰それ」
「あ……えとハルさん」
 既にボトルの半分を飲み終えた彼は、思案顔で間を置いた。
 十代からでもおかしくはない。
 むしろ、それがらしい。
「中学の時かな。友人の父親のウイスキー盗んで、仲間と飲んだあたりから」
「初めてがウイスキーですか!」
「え、そこ驚くところ?」
 呆れた。
 俺は二十歳にチューハイから始めたというのに。
 料理も片付けられ、時刻は十二時を回っていた。
 お客は他にはいない。
 マスターはまたグラス磨きに戻る。
 静かだ。
 落ち着く静けさ。
 カクテルが喉を通る音だけが聞こえる。
「気に入った?」
 俺は頷いた。
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