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あの店に彼がいるそうです
第2章 郷に入ればホストに従え
「だからソファーで良いって言ってるじゃないですか!」
「そんなとこで寝て風邪引かれる方が迷惑なんだけど」
 帰宅後、早速恐れていた事態がやってきた。
 人は疲れたら寝る。
 それは避けられない。
 それでも俺は、この男と同じベッドで眠ることだけは避けたい。
 ラフなシャツとパンツに着替えた類沢は、某洋服メーカーのモデルのようだ。
 下ろした髪がむかつく。
「大体なんでダブルベッドなんですか? 独り身でしょう!」
 類沢はニヤリと口角を持ち上げた。
「僕が一人で寝ることは滅多にないよ」
 この色男めが。
 俺はソファーの後ろに隠れるように距離をとる。
 もう風呂と酒という関門を突破したのだから、休ませて欲しい。
 一緒に寝たりしたら、なにされるかわかったもんじゃない。
 キスされたのは忘れてない。
 口……移しも。
「くく……そんなに警戒しないでよ」
 口元に手を当てて笑う。
「何を怖がってるの?」
 飄々と言う。
 俺は呆れてしまった。
 これが、余裕か。
 俺一人バクバクして。
「とにかく、今日はここで寝させて頂きますから!」
「はいはい」
 リビングからベッドルームは吹き抜けで繋がっている。
 つまり、ベッドから起きて歩いてリビングを横切るとそのまま玄関に一直線という訳だ。
 言い方を変えると、玄関に入るとまず寝室が見える。
 イい配置だよ。
「じゃ、十時には起きなよ」
 時計を見ると四時。
 飲みすぎた。
 俺は一刻も早く眠りたくて、適当に頷くと類沢の背中を見送った。
 それからソファーに倒れ込む。
 程良く柔らかい。
 寝心地は十分良い。
 ひょっとしたら類沢もここで眠ることがあるかもしれない。
「……」
(なに考えてるんだ、俺……)
 思考を停止させると、すぐに夢に潜り込んだ。

 夢はよく覚えていない。
 だから見ているのかもわからない。
 夢の話を嬉々として話す河南が羨ましいくらいだ。
 目覚めて、俺はぼーっとそんなことを考えていた。
 入ってくる朝日の角度からして、まだ8時前後だろう。
 白い天井を見上げて考えに更ける。
 カチカチとどこからか時計の音が聞こえる。
 リビングじゃない。
 寝室の方からか。
「早いね」
 突然目の前に類沢の顔が現れて飛び起きた。
 飛び起きたから、思い切り額をぶつけてしまった。

 類沢の額に。
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