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あの店に彼がいるそうです
第11章 いくら積んでもあげない
「つまり一年以上前から鵜亥は堺からこちらに進出する計画があったということか……しかしわざわざホストクラブを探っていたのは何故だ。新しい人身売買はホストを売りに出すつもりか」
聞き終えた吟が自問する。
類沢は車を運転しながら、思いを巡らせた。
「どうでしょうね。もしかしたら新手のホストクラブを立ち上げて我々を潰す気かもしれません」
ギキッ。
飛び出してきた車にハンドルを切る。
ハイライトで此方を照らす車は急ブレーキをかけ、止まった。
類沢も停車する。
吟が身構えた。
ただのスピード狂じゃないみたい。
徐々に明るみに出てくる輪郭。
二つの人影。
吟は「ほう……」と声を洩らした。
「……ヘルプを任したはずだけど」
類沢の車の前に立ちはだかったのは、仕事着の愛と拓だった。
早足で近寄り後部座席に乗り込む。
バタン。
ドアが閉められる。
「何しに来たの」
「オレも行かせてくださいっ」
拓の叫びが車を揺るがす。
「元気じゃのう」
「さっきまで死んだ眼してた癖に」
それから類沢はミラー越しに愛を見た。
ボブヘアーに隠れた表情。
口元だけが愉快そうに歪んでいる。
「お前は?」
「篠田チーフに運転を任せられました。本当は古城拓を届けたら帰るよう言われているのですが」
「遅いよ」
類沢はアクセルを踏みながら云った。
恐らくキーを付けっぱなしで放置された愛の車は戻る頃にはなくなっていることだろう。
「稼いだ給料消えたね」
「元から降ろす気なかったのでしょう」
似たような冷たさを持つ二人のやりとりを拓は妙にハラハラしながら眺めた。