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あの店に彼がいるそうです
第11章 いくら積んでもあげない
部屋の中を歩き回る。
手がかり。
何でもいい。
この仮説を実証できるものなら。
テーブルに置いたままの携帯を一瞥する。
今の時点では類沢に連絡したところで何も確証をもって言えない。
それに、これは誰にも相談せずに俺が始めたこと。
ついさっき辞めるなんて勝手に言った自分が更に迷惑なんてかけられない。
そこでさっきの電話を思い出した。
―まさかその相手って―
その言葉の途中で電話を切った鵜亥の暗い顔。
それじゃあ、類沢は彼の存在を知っているということか。
ぼふんとソファに崩れこむ。
足を投げ出して、クッションを抱いて。
ホストクラブは他店の闇医者まで把握しているのか。
確かに栗鷹診療所は雛谷も訪れていた。
ああ、あのときキャッスルの闇医者について訊いておけばよかった。
まさかこんな事態になるなんて思わないから。
考えても仕方ないことは無駄だ。
深呼吸をして、うなじを指圧する。
疲れてるな。
マッサージをしながら思いを巡らせる。
そこで汐野にシャワーを浴びるよう言われていたことを思い出した。
急いで浴室に向かう。
服を脱ぎながら、突然鳥肌が立った。
「確か鵜亥さんは、俺をスカウトしたいって言ってたよな……? それってどういう」
裸のまま立ちすくむ。
闇医者。
医者のスカウトなんてありえない。
助手だってその業界人でなければ……
―忍様の件を伺いにお会いした時から貴方をスカウトしたかったのです―
はっと口を押える。
そもそもその「最初」が違和感の元じゃないか。
なんで鵜亥はあそこに俺がいると知っていた?
それも類沢さんの車の中に。
いや。
それより以前に、なんで雛谷や拓じゃなくて俺にそれを伝えに来たんだ。
ドクンドクンと心臓が早鐘を打つ。
怖い。
結論を導くのが怖い。
自分の大きな過ちに飲み込まれそうで。
でも、考えろ。
考えるんだ。
そうじゃなければ、もっと事態は恐ろしい方向に進みそうだから。
元々鵜亥の目的が俺だとして、その俺になんの価値を見出したんだ。
ついこないだまで普通の大学生だった俺に。
―だからお前は自覚が足りねえんだよ―
夢の中の玲の声が囁いた。
俺と今一番関わりが深い人間は?
一人しかいない。
「鵜亥の目的は……類沢さん」
だから、心配して名前を挙げたのか?