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あの店に彼がいるそうです
第11章 いくら積んでもあげない
「うちの客の次は瑞希を使って僕を貶めたいんですか。どこまで貴方はしつこいんだ」
 その語気に遠慮はない。
 秋倉は前回以上に殺気を剥き出しにする類沢に威勢を削がれた。
「随分と機嫌が悪いな」
「瑞希はどこにいるんです?」
 汐野の銃など眼に入らないかのように空気を圧する類沢。
 その背中を愛はただじっと見ていた。
 これほどまでに遠かったかと。
 あと少しで引きずりおろしかけたと錯覚していたこの方は、まだこんなにも。
 その愛の横顔を吟が見守る。
 類沢雅の跡を継ぐのは誰かと噂される昨今名前が挙がってきた彼のことを、シャドウズのメンバーも注目していたのだ。
 初めて相対した吟の印象は一つ。
 店を継ぐには孤独すぎる。
 それだけだった。
 今のトップが経てきた孤独とは色が違う。
 だから、無理だろう。
 今はまだ、と。
「この上だ」
「今すぐ連れてきてもらいたい」
「そうしたところでお前の元には戻らないと思うぞ? シエラも自分から辞めたんじゃなかったか?」
「そうやでー」
 銃をくるくる回しながら汐野が野次を飛ばす。
 それを一瞬睨むが、すぐに視線を秋倉に戻す。
「どういう説得をしたかは知らないけど、本人に直接確認しない限り認められない」
「そんな権利があるのか? 雅」
「ありますよっ」
 怒鳴ったのは拓だった。
 鼻息を荒くして、怒りを放ちながら前に進む。
 興味なさそうに汐野が銃口を向ける。
「瑞希はオレの親友です。そして類沢さんの同居人ですっ。たった数日、忍の病気の件で関わったくらいのあんたらに瑞希をとられる言われはないっつうの!」
「お前は誰やねん、ガキ」
「古城拓っていいますけど!」
「馬鹿正直に自己紹介してどうする」
 本当にテンポを乱すのが得意だよ。
 類沢が苦笑しながら拓を留める。
「血の気が多い若者同士のやりとりほど危なっかしいもんはない。おい、秋倉殿。そっちの目的を教えてくれんかの。岸本忍の施術チームは既にこっちで裏を掴んだ。信頼はおけるようじゃの。だが、ちと妙すぎる。数千万の肩代わりまでして何を手に入れようとしている? 前回支所を潰された復讐か?」
 場の空気が鎮まる。
 類沢も黙って吟に主導権を譲った。
「そういえば前は派手に暴れてくれてたな、じいさん。シエラでもない輩が口を突っ込むことか?」
「ホストでもない人間がしゃしゃり出てよく言うわ」
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