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あの店に彼がいるそうです
第11章 いくら積んでもあげない
 一番歳が近いであろう二人のやりとりに全員が一歩引く。
 吟はカツカツと秋倉の目の前まで歩きながら続ける。
「半世紀以上この街を見てきた老い耄れの意見だが、名義屋といい今朝のニュースの件と言い、最近はどうにも裏の方が粗暴になってきておるようでな。お前さんが仕入れ先に使っている信越の奴らも代が変わってやり方もおかしくなってきている」
「なにが言いたい」
「さらに堺の連中を混ぜて話をややこしくするのは面倒だ」
 汐野がぴくりと眉を上げる。
「わかりやすくしようじゃないか」
 そこで上げようとした吟の手に愛が飛びついた。
 構えられていた拳銃の存在を知っていたのだ。
 怪訝そうに愛を見上げる吟に汐野は躊躇いなく照準を合わせる。
「……鵜亥さんの組織に潰されたいんですか」
「単純な話こいつら殺して瑞希を取り戻してもいいと思うんじゃが」
「日和話の声で物騒なこと言う。還暦過ぎて常識も腐ってきてるんじゃないか」
「とうの昔に理性を腐敗させた奴に言われとうないの」
「過去の栄光にすがってる老害が」
「過去の男娼に執着しとる変態が」
「まてまて。あんさんらいつまで続けんのソレ」
 一歩も譲らない両者に見かねた汐野が口を挟む。
 これだから東京もんは、と脳内で呟きながら。
「鵜亥の目的は何?」
 類沢が核心だけを求めた質問を発する。
 吟の存在があっても、そろそろ限界状態だった。
 昨晩の瑞希の絶望した顔が脳裏をよぎる。
 あの時快諾しなかった自分を問い質したい。
 今考えても仕方ないけど。
「誰にもわからん。ただお前を手に入れたいという目的に合いそうだからつるんだだけだ」
「その部下が隣におりまっせー」
「黙ってろ、若造が」
「おおー、こわ」
 吟の鋭い眼もどこ吹く風といった汐野を一瞥して、秋倉は類沢に向き直った。
「瑞希の代わりにお前に戻ってこいと言ったらどうする」
「すぐに貴方を殺して逃げますよ?」
「即答にしては酷い返事だな」
「あの頃の僕と同じにしないでください。今では素手で貴方を殺せますから」
「口で、の間違いじゃないのか」
 下卑た笑みに空気が凍っていく。
「そろそろ本音で話しましょうよ……」
 そこで声を上げたのは拓だった。
 意外な発言主に全員の視線が集まる。
「瑞希ここにはいないんすよね……違う?」
 何を言ってんだ。
 こいつ。
 そんな空気の中、銃声が鳴った。
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