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あの店に彼がいるそうです
第11章 いくら積んでもあげない
狭い部屋に入れられた拓と吟。
何も置かれていない棚と、簡易なベッドだけが空間を占める。
放置された傷は、止血もままならず、苦痛に耐える拓を吟がベッドに横たわらせた。
手は体の前で手錠を填められている。
「すいません……オレが余計なこと言ったからこんなことに」
「お前さんのせいじゃない。そんなことに気を回す暇があったら腹に力入れて血でも止めてみろ」
言葉の割に優しい口調の吟は、枕のシーツを剥ぎ取り、拓の脚の救急処置を行った。
きつく脚を締め付けられながら拓が顔を歪める。
「類沢さん……無事っすかね。なんか因縁でもある感じでしたけど」
「ああ、シエラには最近入ったから事情を知らんのか。秋倉と類沢の過去を」
処置を終えた吟がベッドに腰掛ける。
「何があったんですか」
吟は空を見つめ、過去を思い返すように遠い眼をした。
「なに……こんな何も出来ん今だから話すべきことかもしれんがな。あれは店のトップの誇りを持っておる。新人のお前さんに聞かれたくないことも沢山あるだろう。歌舞伎町に流れてくるもんは、それぞれ厄介な過去を持っている。そうだろう、岸本忍の恋人?」
「あ、あは……オレと忍はただの親友すよ」
「還暦迎えたこのわしを騙せると思わんことだな。キャッスルの話は会合でいつも雛谷から聞いておる。篠田からどういう経緯で働くことになったかもな。今回の一連の動きも大体は把握している」
「店同士の情報共有ってすごいんすね」
こんな状況にも関わらず、つい感嘆してしまう。
吟は呆れたように笑った。
「それもあるがな。お前さん、今死ぬほど悔しいんじゃろ?」
「……え」
「命を懸けて守りたい人間を、ほかの人間がまさに命を懸けて守っている。そしてその本人は危機に晒されている。大いに不本意だろう? 宮内瑞希も岸本忍も大事な存在なのに、自分の手の届かんところでコトが動き続けている。今回だってそれを変えたくてついてきたはずなのに、脚を撃たれて戦力外。腸煮えくり返りそうじゃないのか?」
頷くこともせず、黙って聞いていた拓が、俯きながら掠れ声で答えた。
「……流石、伝説のホストさんすね。その通り過ぎてびびっちゃいました」
ポンと拘束された手で拓の頭を優しく叩く。
「ちゃんと活躍すべき舞台ってもんは誰にでもある。今だって必要な役者の一人と云う自覚を忘れるな」
「……はいっ」