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あの店に彼がいるそうです
第11章 いくら積んでもあげない
気絶した瑞希をしばらく愛しそうに撫で、鵜亥は着信に光る携帯を手に取った。
「そちらは平和に済みましたか?」
「そちらの部下がやったことを除けばな」
不機嫌そうな秋倉の声に朗らかな声で答える。
「よかったではないですか。そのようですと目当てのものは手に入ったのでしょう?」
数瞬の沈黙。
そこに不満を感じ取った鵜亥が声色を変える。
「少年の脚を切り落として体を売らせていた貴方に何の気がかりがあるのです?」
「それは部下が勝手に」
「ええ。では今回の私の部下の期待に適わぬ行動もある種想定内だったのではないですか」
「……」
窓に近づき、夜景を眺めながら鵜亥は続ける。
「汐野が動かなければ相手の話に躊躇でもしましたか? 今回の取引では私の方はもう利益を得てますので、今後は貴方次第ですよ」
「わかっている」
苛ただしい秋倉の語気にほくそ笑みそうになる。
十何年も一人の男すら手に入らないわけがよくわかる。
こいつには非情さが足りない。
仕事相手としては今回きりになるだろう。
「一つ警告がある」
「なんでしょう?」
「愛とかいうそっちの元部下がシエラに逃げたらしい。もしかしたら本拠地に篠田あたりが攻め込むかもしれん」
「ほう、それで」
「それで?」
「私に警戒しろとでも言いたいんでしょうか」
顔を真っ赤にする秋倉の様子が眼に浮かぶ。
「どうやら不要だったようだな」
「ご心配有難うございます」
言い終わらないうちに電子音が会話を中断した。
短気な男だ。
通話終了の画面のまま机に戻し、ベッドを振り向く。
そこに横たわる瑞希を確認しただけで顔が緩んだ。
三年間、出会うことの無かった理想の青年。
巧の代わり。
まさか、こんな簡単に手に入るとは。
先刻までの至福の時間を思い出して悦に浸る。
痛みと快感に悶え苦しむ顔がたまらない。
今度は機械でなく直接嬲ってやろう。
もっと近くで見ることが出来る。
痛みに敏感な部分があるからリングを使用するのもいいだろう。
殴った時のあの反応。
もう一度見たい。
秋倉と大きく違うのは、この鵜亥の躊躇いの無い残虐性だろう。
商品ではなく自分のものである青年に対しては顔だろうと露出する場所であろうと構わず傷つける。
かつてその行き過ぎた行為に命を落とした者もいる。
一番もった巧も二年の付き合いだった。