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あの店に彼がいるそうです
第13章 今別れたらもう二度と
 落ちた銃に三人の視線がそろった瞬間、余りにも場違いな音が響いた。
 ピンポーン。
 玄関の、チャイムが。
 間延びしたその音の余韻が鼓膜を揺らす。
「……え?」
 雅樹がそちらを振り返る。
 ここがどこか後から思い出したようだ。
 秋倉真の家。
 そこに訪問するのは?
 急いで考えを巡らせる。
 その様子を見ていた類沢が目を微かに細めた。
 これは、一度きりのチャンス。
 廊下の秋倉はまだ気絶している。
 弦宮麻耶はすぐそばに。
 壁に空いたいくつもの銃痕に、倒れたソファ、散乱したガラス。

 全てが整っている。

 類沢はゆっくりと目線を雅樹に向けた。
「リサーチが足りなかったね。もしくは金原圭吾の準備不足かな」
「あ?」
 焦った反応。
 これは好い。
「今夜は秋倉の組織も慌ただしく動いている。おかしいと思わない? なんで僕一人がここに連れられてきたのか。どうやって。その経緯をちゃんと把握していたら、さ……」
「秋倉さん! 開けていただけますか? 携帯が通じないので直接報告に参りました」
 玄関から大きな声が響く。
 類沢は知っていた。
 あの場に居た、秋倉の部下の声。
「こういう風に、部下がすぐ来るのも予測できたはずだけど」
 さあ。
 どのくらいで効果を発揮する?
 雅樹が今どういう事態かわかれば……
 ちなみに、鍵は空いてるんだよね。
 秋倉の後から入った類沢は笑みを飲み込んだ。
 相当事態は急を要している。
 あの連中は小木を生み出した組織の人間だ。
 青年ひとりにも容赦はしないだろう。
「秋倉を撃ったのは間違いなくお前だからね。彼らに見つかったらどうなるかわかってる? あと数十秒もしないうちに入ってくるよ。殺されたい?」
「っ……」
 情けない顔。
 さっきまでの威勢はあくまで自分の支配に及ぶ範囲内でのみのもの。
「今すぐ走って玄関の鍵を閉めるか、銃一つで応対するか、決めなよ」
 こういう時に沈黙を保ってくれる麻耶に感謝する。
 余計な口出しは一切しない。
 だが、背中に刺さる視線から緊迫が伝わってくる。
 たとえここで雅樹が望んだ選択をしなかったとして、あの連中に向かい合うことになっても、この人だけは傷つけない。
 守ってみせる。
 絶対に。
 そう、確かめるように心で呟く。
 ここにいるべきじゃない人間は貴方だけだ。
 
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