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あの店に彼がいるそうです
第13章 今別れたらもう二度と
 雅樹の手が肩をぎゅっと掴んで言葉が遮られる。
 俯いた雅樹を見下ろして、溜息を吐く。
 その頭を抱き寄せて玲がぽんぽんと背中を摩る。
「……気持ち悪い」
「お前……珍しく慰めようとしてる相棒にな」
「悪い。ホモって思われるかもしんないけど、もう少しそうやってて」
「ふはっ。オレに言うことか? それ」
 人目が突き刺さるのも構わず、玲は言うとおりにする。
「玲最近何やってた」
「あ? ああ、仕事何件か来てそっちで忙しかったけど。お前も今日と言い何かやってんだろ」
 適当な口調で。
 いつもこうだ。
 玲はあまり頓着ってものをしない。
 関心も趣味もわからない。
 知り合ったのはホストを辞めてからだ。
 一年余りの付き合い。
 それでも、今の自分にとっては一番の理解者ともいえるかもしれない。
「れぇ……」
「まだ泣いてんの、お前。とりあえず飲み屋入るぞ。歩け歩け」
 肩を支えながら歩き出す。
 涙が止まらない。
 過呼吸気味の雅樹に合わせて、歩幅を縮める玲。
「聖。お前さ」
「……ぅ?」
「前のホストクラブには戻んねえの?」
「え?」
 なんで。
 玲は知っている。
 雅樹という名前でホストをやっていたことを。
 だが、今までそれを話題に挙げることはなかった。
「今のお前の働いてるところ、ガヴィアだっけ。悪い噂ばっか聞くからよ」
「ああ……名義屋とか?」
「あ……知ってるよな、そりゃ」
「一応はトップだからな」
 やっと涙が落ち着いてくる。
 鼻を啜って雅樹は背筋を伸ばした。
 肩から手が外される。
「お前のとこの責任者、チーフっつうの。それって誰なんだ」
「なに? いきなり」
「っ……やっぱ、お前ホスト辞めろ。オレと一緒に働け」
「だから、何?」
 玲が大きく息を吐いて、突然足の向きを変えたかと思うと串カツ屋に入って行った。
「お客様……」
「二名。喫煙」
「畏まりました」
「ちょ、玲……」
 すたすたと端の席に着いた玲を追う。
 煙草を取り出し火を点ける。
「なんなんだよ」
「オレって昔から勘は当たるんだ」
「は?」
「さっきもそれでお前と鉢合わせたわけだが。お前、ヤバい連中に喧嘩売ったろ」
 雅樹が静止する。
 玲は知らないはずだ。
 さっきまでのことは。
「なんで」
「その中に柾谷って男がいる。そいつは洒落になんねえ。お前死ぬぞ?」
 がたりと立ち上がる。
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