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あの店に彼がいるそうです
第13章 今別れたらもう二度と
「座れ。落ち着いて話を聞け」
店員がおしぼりを運んできたのにぶつかりそうになる。
気まずくなりつつも、腰を下ろす。
「……今どきの携帯って、簡単に電池に盗聴器内臓させて仕込めるんだ。前回宮内瑞希拉致ったときにお前の携帯弄らせてもらった」
涙がなかったかのように引いていく。
乾いた眼で瞬きをする。
「はあ?」
「だから」
「ナニソレ。今までの勘どうこうの話は全部でたらめかよ?」
「ちが……」
「すみません! 生二つ!」
「かしこまりましたー」
叫んでオーダーした雅樹を玲が呆然と見つめる。
「……お前の奢りだろ。飲まなきゃやってられるか」
苛ただしい声で噛みつく。
ああ、でも。
手の震えは止まっている。
玲が来てから。
「なんで俺を見張ってたの」
「お前が……お気に入りだから」
「生二つお待ち―!」
何かを言おうと口を開いたままジョッキを受け取り、一気飲みする。
玲もそうだった。
空になったグラスがガン、と同時にテーブルに置かれる。
「すみません! ハイボール二つ!」
今度は玲がオーダーした。
口についた泡を舐めて。
嵐の前の静けさだったのかもしれない。
「お前そういう対象で見ないって初めに会ったとき言っただろうが!」
「状況が変わればんなもん変わんだろ!」
「気に入ったら盗聴器仕込んでもいいってのか!?」
「それは毎回仕事ともにする奴にはやってんだよ! 通信は一週間で破棄するけどな!」
「じゃ……じゃあなんで俺は三週間たっても聴いてんだよ!」
「心配だったからだろうが! あの時不自然に逃げやがって結局あれから会っても無いからな! 堺からヤバい連中来たって話もあったし、お前の店も相変わらず黒いことばっか手出してるから気になるだろ!」
運ばれてきたハイボールを同時に飲み干す。
「っぶは! なんだよ、黒いことって!」
「ガヴィアは売り上げの為ならなんでもするって噂だからな! 新たな名簿調達の為に柾谷側に男売るって話も浮上してんだよ! たとえばトップのお前とか!」
しん、と空気が静まり返る。
ジョッキの面を水滴が伝っていく。
「は……? なんだそれ」
「それを聞いちまったからこうして言ってんだろ」
「いや、待て……チーフが俺を?」
「今回さらにお前柾谷さんに喧嘩売ってるからな……それで心配になってんだよ。すいません、日本酒三合!」