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あの店に彼がいるそうです
第14章 夢から覚めました
意味ありげに俺を一瞥した河南が含み笑いをする。
「ん?」
「んーん。なんでもない」
半時間もしないうちに料理が全てなくなり、四人はくつろいで雑談に花を咲かせていた。
「民俗学てんなことやってんの」
「うん。フィールドワークとかね、地方に色々行って」
「大学かあ……」
拓が真剣な目になる。
「どした」
「忍は大学行ったら何学部に入ったのかなあって。ルックス的には法学部だろー。でも白衣が見たいから物理とか医学系に行って欲しい気もするし……」
ぽかんとした忍が頬を緩ませて拓の頭をはたく。
「なーに真面目にアホ言ってんだよ」
「オレは? どこ入ってそう?」
「ヒマ経」
「瑞希!」
「ああ、確かに」
河南もつられて四人で笑い合う。
なんだろう。
久しぶりだった。
こんなくだらない会話。
気兼ねない会話。
本来いるべき場所。
遠い眼をした俺を河南がじっと見つめる。
「類沢さんに、会いたい?」
空気が一変する。
俺は言葉に詰まった。
拓と忍も神妙に口を結んでいる。
「いや……わかんね。あの人結局自分でどっか行っちゃったわけで、俺にはどうすることも出来ないし……ちがう、なんだろ……会いたい? そりゃ会いたい。でも会った先が何も想像つかないんだ」
きゅっと河南が俺の手を握った。
小さな手。
女の子の手。
守ろうとしていた手。
河南の手。
「夢だよね」
「え?」
「類沢さんて、夢みたいな存在だと思う。うまく言えないけど……初めて歌舞伎町でさ、瑞希より先に姿を見たとき思ったの。掴めないなあって。でも惹かれるの。不思議だよね」
「夢……」
言い得ているかもしれない。
たまにあの人が本当に人間なのかって感じるときもある。
「あの人、まだ戻ってねえの」
拓が訊きづらそうに呟く。
「……ああ。弦宮って人と姿を消したっきり。チーフにもわからないって」
「そんな簡単に辞められると思わなかった……今はじゃあ、アカと千夏が?」
「一応。でも類沢さん目当ての客は来なくなった……当たり前だけどな」
トップ不在。
瞬く間に街中に情報は知れ渡った。
瀬々晃や愛を除けばトップ集団は二十歳前後のシエラにとって、彼の不在は痛すぎるものだった。
「そういや……愛は元気?」
「ああ。色々聞いたけど」
鵜亥。
かつての愛の上司は今どこにいるんだろう。