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あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです
「あいつなら……麻那さんに黙って類沢さんを渡すわけがない」
頭の中でピースが回転しながら填まる方向を模索する。
「え?」
「何があったんですか? あの夜。俺が知らないところで。貴女と類沢さんと雅樹はっ、一体どこで何を!?」
圧し殺した叫びが空気を震わせ、一夜が客と共に此方を窺う。
右手で左手首を押さえながら、荒くなった呼吸をなんとか落ち着かせる。
「瑞希くん」
「……すみません。取り乱して。俺にとっては大事なことなんです」
消えない傷と感触。
汐野の笑い声と、鵜亥の侮辱。
屈辱。
脳を焼いた電流。
一言一句思い出せる。
あいつらが話したこと。
朦朧としながらも、助けを信じた時間。
目を瞑り、なんとか心臓を静かにさせる。
麻那は伸ばしかけた手を下ろした。
「あの夜、私は金原圭吾から連絡を貰って定められた住所に案内されたの」
金原圭吾。
ホストになりたがっていると訊いた、あのイタリアンバーの青年。
「そこに雅樹という青年が待ってたわ。雅とは前に一緒に働いていたみたいで、凄く親しげに評判を教えてくれた」
類沢と雅樹の過去は詳しくは知らない。
訊いたところで、意味もなさないから。
俺を拉致した理由が類沢を手に入れるためなんて、その裏の感情なんて理解したくもない。
「雅が来てから、彼は出迎えに行った。そこからおかしなことが沢山起こったわ」
「似てる……」
「似てる?」
「俺が前に雅樹に捕まった時に状況が似てるんです。すみません。ここから先は訊きません。大変な思いをしたでしょう」
玲もいたんだろうか。
一体どこまで手にかけるんだ。
俺のみならず。
なんらかの暴力は生じたはず。
「……よく逃げられましたね」
「随分事情をわかってるのね。ええ。あんなに懸命に走ったのは十何年かぶりだったわ」
空になった彼女のグラスに注ぎながら、お互い沈黙の中で目線を交差する。
すぐに逸れたが。
ボトルを置いて、眉間を撫でる。
そうか。
そうか、って。
納得させようと。
ー貴方はどうするのかしらー
蓮花の声が揺らめく。
どうする?
彼女に何を言えば良い。
何を訴えたら良い。
「……類沢さんは、ホストです」
つい口から出た言葉がじわりと脳に沁みる。