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あの店に彼がいるそうです
第15章 あの店に彼がいるそうです
栗鷹悠と話していた篠田は、螺旋階段から降りてくる影を見上げて、手に持っていた新しい仮面を床に跳ねさせた。
その音に鏡子が駆けつけ、後ろから一夜と晃も早足で集まる。
「勝手にVIPルーム案内するな」
「すみません」
「お前も来たなら連絡入れろよ」
「入れてなかった?」
一同が小さな笑いを含ませているときに、玄関が開く。
まだ開店前だが、と篠田が口を開こうとした瞬間、沢山の声が押し入ってきた。
「わーお。類沢さんいんじゃぁん! 篠田さん、これマスターからのお酒です」
「振り回すな、空斗」
「おやおやおや、スパークリングでなければよいので御座いますがね」
「本日シャドウズ臨時休業ー! ってことで飲みに来たぜ、篠田さん」
「はしゃぐな、空牙。耳に障る」
「皆さん、落ち着いては如何でしょうか」
「あれ? 大集合だね。呼んだの? 春哉」
「まさか」
思わぬ集合に困惑しているのはオーナーの篠田であった。
雛谷から賭けで勝ったワインを受け取り、私服姿のホストたちに呆気に取られる。
空牙は一夜と晃に親近感を覚えたのか肩を強めに組んで、談笑を始めた。
栗鷹夫妻が吟に会釈し、最近の歌舞伎町の動向を確認し始める。
紫苑も拓の容態を気にかけてそこに加わる。
松園親子は香り放つウォールフラワーに目をつけて、篠田にどこから取り寄せたか詳しく質問攻めする。
その全てを俺と類沢は傍観者となって、眺めていた。
「……賑やか」
「凄いですね。二ヶ月ぶりに八人集が揃ってますよ? 類沢さんも」
「おっと……更にビックゲストが来てる」
「え?」
玄関に走った視線を追いかけると、そこには、あのイタリアンレストランで見たマスターと、金原圭吾が立っていた。
コツコツと音を鳴らして類沢が近づく。
マスターは微笑んで、それに答えて進み出た。
俺と金原は互いの上司の一歩後ろに控える。
「お久しぶりです」
「随分ご無沙汰だな」
「色々伺ってはいたんじゃないの? 柾谷の件ではお世話になったって言えばいいのかな」
「聖と弦宮の橋渡しは私は関わっていないよ。弦宮麻那がこの店に来るよう頼んだのも息子がしたことだ」
はっと、金原を見る類沢に、青年は優しく口角をもちあげた。
秋倉の自宅の前で会ったときのように。
「何故……」
「オレに来た依頼は一つです。貴方にホストを辞めさせること」