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あの店に彼がいるそうです
第6章 随分未熟だったみたい
 目が覚めると夕方で、俺はダボダボのシャツを着てベッドに横たわっていた。
 身を起こそうとして寝返りをうつと、目の前に類沢の顔があった。
「わっ」
「額はぶつけられずに済んだね」
 可笑しそうに云う類沢を何故か直視できない。
 必死で記憶を辿る。
 確か、みんなが助けに来て。
 車で帰って来て。
 それから……
 顔から火が出そうなほど熱くなった。
「あ」
「思い出した?」
「るる類沢さん、俺……」
 あれが夢じゃないなら。
 現実なら。
 ぐるぐると混乱する。
 俺が誘った?
 脚を擦り合わせると液体が絡まった。
 サァーッと青ざめる。
「俺……え。まさか」
 河南という者がありながら……
 ポンと類沢が頭を撫でる。
 俺の顔を引き寄せ囁いた。
「加減出来なくてごめんね」
 そのスマイルに魂が抜けそうになった。
 抜かれたかもしれない。

 良い香りがする。
 そっか。
 仕事の準備しなきゃ。
 客とって。
 借金返して。
 ボスっ。
 ベッドに倒れる。
 そんなことは全部どうっでもいい。
 最重要は……
「夕飯出来たよ、ってまだ寝るの?」
「起きますっ」
 彼だ。
 テーブルには相変わらずプロ級の料理が並んでいる。
 でも食欲はそそられない。
 グラスを傾ける類沢にばかり目がいってしまう。
 上下する喉に、理由もなく恥ずかしくなる。
「お箸の持ち方忘れたの?」
 いつまでもカチカチとしていた俺の手元を指差す。
「あっ、いや」
「あのさ」
 びくうっと背中が反応する。
 何を言われるか全神経が張りつめる。
「僕も瑞希も玲とかいう男の薬でおかしくなっただけなんだから、そんなに怯えないでくれる」
「怯えてるんじゃなくて……っ」
 じゃなくて、なに。
 どうしたらいいのか、何を言えば良いのか、どんな顔をしたらいいのか全くわからない。
 類沢が箸を置いて、席を立った。
 俺のそばに来て両手を掴む。
 カラン。
 手から二本の棒が零れる。
「なんで瑞希は僕の家にいるの」
「へ?」
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