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あの店に彼がいるそうです
第6章 随分未熟だったみたい
「借金を返すためだよ」
 俺は呆気にとられてしまう。
「だから……僕は無理やり瑞希を抱いたりしないから、今まで通りにしなよ」
 脳に届くまで時間差があった。
「え、えと」
「その方が仕事も集中できるでしょ」
 類沢が手を離して食器を片付ける。
 カチャカチャ。
 その手を、去る背中を見てしまう。
「僕は嬉しかったけどね」
 カウンターの向こうの呟きに心臓が鷲掴みにされた気分だった。

「ようこそ、シエラへ」
 なんだか久しぶりみたいだ。
 綺羅びやかな装飾。
 明るい店内に女性達。
「元気ないな、瑞希」
 出迎えに行こうとしたところ、篠田に捕まった。
「ち、チーフ」
「体調は大丈夫か?」
 今日もベージュの上下がよく似合う。
「一応といいますか」
 それ以上に問題がありますが。
「類沢はピンピンしてんだけどな」
 その名前に飛び上がりそうになる。
 篠田が見逃さない訳がなかった。
 腕を引かれて事務室に入る。
「なんかあったのか」
 扉が閉まる。
 ここは苦手だ。
 逆らってはいけない空気に満ちている。
「その……」
「お前、自分の立場わかってるか」
 真っ白になる。
 借金を体で返せとか言われるのか。
「あの類沢に命懸けられた男だぞ」
「え?」
 なんの話だろう。
 困惑する俺のネクタイを引き寄せる。
「お前が気絶していた間のことだよ。類沢は自分が仕事出来なくなるかもしれないのに身代わりになって薬を打ったんだ。云っとくがデビューから一緒だったが、あんなの初めてだったぞ」
 パッと解放され、立ち尽くす。
「類沢に拾われた命だ。有効に使え。ぼーっとしてる場合じゃないし、ちゃんと答えてやれよ」
 バタン。
 空気が揺れた。
 一人残され、床を眺める。
「類沢さんが?」
 そういえば……
-僕も瑞希も玲とかいう男の薬でおかしくなっただけなんだから-
 俺が受けたあれを、身代わりになったってこと?
 素直に喜べない自分が腹立たしい。
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