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あの店に彼がいるそうです
第6章 随分未熟だったみたい
 篠田は次に類沢を連れ出す。
 丁度客が途切れる五分を知ってのことだ。
 裏口に来た類沢が眉をひそめる。
「ナニ?」
「あのあと瑞希と何かあったか」
 顔を見るまでもなかった。
 息を吐き、首筋を押さえる。
 そのまま指でなぞりながら類沢はポツリと話始めた。
 聞き終えた篠田が尋ねる。
「それ、本当に薬のせいか?」
「心外だね」
 考え以上の展開に篠田は首を振る。
「あいつはともかく、お前大丈夫なのか雅」
 黒に金糸を織り込んだスーツを着こなす彼だが、一瞬弱々しく笑んだ。
「随分未熟だったみたい……僕も」
 フレグランスの甘い香り。
 魅せた額に垂れる一筋の黒髪。
 誰もが視界を奪われる瞳。
 その類沢が、初恋をした青年のように戸惑っている。
 篠田はつい顔が緩みそうになった。
「笑ってない? 春哉」
「ちょっとな。まさかお前が恋愛に悩むなんて思ってもなかったから」
「恋愛、ねえ。一緒に住むのって意外に地獄ってのは知ってたんだけど……生殺しっていうの?」
「彼女がいようが十歳近く年下だろうが関係ないんじゃないのか、今までの雅なら」
 煙草を取り出しかけた手が止まる。
 長い睫毛が妖しく下を向く。
「自制効かない自分が厭でね」
「これからどうする」
 類沢は夜風を浴びながら思案した。
「瑞希が帰りたいって言えば帰してあげるかな」
 それから扉に手をかける。
「多分無理だけど」
「ああ、今さらだな」
 フッと息を洩らし、類沢は輝く店内に戻っていった。
 パタン。

 閉じた扉を見つめる。
「雅……このままだと一位を維持できないんじゃないか」
 低い声が届くことはなかった。
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