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叶わないならせめて、手に入らないならいっそ
第6章 傘ふたつ
「あんた、まだ熱あるんじゃない?」

翌朝、腫れぼったい俺の顔を見て母親が言った。

「大丈夫。今日は学校行く……」

昨日休んだのは仮病だったし、この顔も泣き腫らしたせいだ。
しゅーちゃんに乱暴にされた場所は少し痛むけれど、寝込むほどでもない。

どうせ家にいても、しゅーちゃんからは逃げられないんだ。
それなら、外に出ていた方が気が紛れる。

玄関を出て、いつもどおりマンションの非常階段を降りる。
一瞬、しゅーちゃんの住んでいる階で立ち止まったけれど、そのまま素通りした。

毎朝しゅーちゃんを迎えに行くのは俺の日課だった。
でも今は顔も見たくない。

梅雨の空は雲っていて、湿った匂いがした。
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