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藤の舞
第12章 飢えと渇き
院長と顔を合わせるまで後5分…
ボクは深呼吸をして、動揺を隠す。

奥さんはボクのものじゃない。
サイトの先生のもので、院長が最初の客として呼ばれただけだ。
割り切るんだ。
自分に言い聞かせた。

昨日の研修って、あれだったんだ。
映像が浮かぶのを追い払って深呼吸をした。

「おはよう、昨日は突然研修で空けてしまったが、
何も問題はなかったかね?」

「はい、おはようございます。
大丈夫でした。」

「それは頼もしい。
君にはこれから色々お願いして、経験を積んでもらいたい。
ところで、今日、ランチを一緒にしないかね?」

「はい、お願いします。」

昨日の不在の話になり、思わず動揺しそうだったが、たぶん院長には気付かれていないと思う。

そこからは診察が始まり、いつもの通りとなった。


「ところで、急な話なんだが、このあと、他院のヘルプに入って欲しいんだが…」

ランチの場所で院長に言われる。

「ボクがですか?
大丈夫でしょうか?」

「いや、助手が足りないと言われたので十分だよ。
実は店にタクシーを呼んである。
行き先も告げてあるので、着いたら裏口から入って、あちらの先生の指示に従ってくれ。」
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