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第2章 人妻 美子(42)

「河瀬さん、ちょっと話があるんだ。昼ご飯終わったら事務所まで来てくれないかな」

健一が言った

「はい、わかりました」

美子は視線を合わせずに答えた

どんな話なんだろう…

美子は不安だった

あれだけあからさまな接触をしてきた男

二人きりにはなりたくない

美子は不安な気持ちのまま事務所のドアを叩いた

「失礼します」

「おぉ、来たね、河瀬さん、まぁ、座って」

健一は明るく振る舞う

「コーヒーがいい？お茶がいい？」

尋ねる健一

「お茶でお願いします」

美子は緊張した面持ちで答える

「ゴメンね、休憩時間なのに。実はね、この間の件なんだけど…」

美子は驚いた

この間の件とは、社員は知るはずもないと思っていた、小さないさかいだった

新人の美子の手際が良くないため、ベテランの１人が文句をつけ、それが発端でライン全体で騒動になったことがある

勤務時間終了後のことなので、社員の健一には知られていないと思っていた

「すみません、私が不器用なばっかりに…」

「いやいや、この仕事ではね、良くあることなんだよ。辞めて欲しくないから頑張って。慣れるまでには、そう時間はかからないよ」

美子と健一はしばし会話をした

「あっ、そう、もし良ければ今度一緒に飲みながらお話できないかな？。仕事のこともあるし、このままじゃあ、他の人達との人間関係もね…」

健一が美子を誘った

「えっ…はい…でも、私、子供もいるし、夜はちょっと…」

「時間ある時に少しお話したいな。特に今回はこんなことがあったからね」

健一は巧みだった

「はい、じゃあ、早い時間だったら…」

美子は答えてしまった

こんな男の誘いに易々と乗る自分が嫌だったが、今の自分の立場では、はっきりと断る訳にもいかなかった



午後からの仕事が始まった

美子の回りには相変わらず高く積み上げられた食材や機材があった

しかし、この日から、健一の背後からの密着指導はほとんどなくなっていた…




「明日か…」

美子は憂鬱だった

健一と飲みに行く約束をしたのが今日だった

午後5時待ち合わせ

何をされても、何を言われても、あの男の欲望に応えるつもりはない

わたしは人妻…

だが、旦那に飲みに行くこと、ママ友同士と偽って、を伝えても、何のリアクションもない