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鈴(REI)~その先にあるものは~
第5章 永遠の別離~無窮~
お亀は固唾を呑んで、苦しみのたうち回る嘉利を見つめていた。
時ここに至り、お亀にも漸く状況が理解できた。
嘉利は、お香代の亡霊を視ているのだ。
いや、亡霊なぞというものがこの世に現実に存在するのかどうか判らない。しかし、嘉利に犯され、身ごもった末に非業の死を遂げたお香代の怨念が今、ここにかつての姿を取り戻し現れたのだとしても、いささかの不思議はないだろう。
もしかしたら、嘉利が見ているのは、彼自身の過去に犯した罪への呵責にすぎないのかもしれない。これまで己れが犯してきた悪行の数々への無意識の怖れと悔恨がお香代の幻影という形となって見えているだけなのかもしれない。
いずれにせよ、嘉利についに仏罰が下されたのだ。
と、強い力で手を引かれ、お亀は我に返った。
振り向けば、そこに小五郎が立っていた。
「お亀どの、行きましょう」
「小五郎どの、どうしてここに」
お亀の顔に愕きがひろがる。
「話は後でもできる。今はここを逃れることが肝要です」
でも、と、お亀は、背後を見た。
相変わらず頭を抱えて、もんどりうつ嘉利がいる。こんな状態の男を一人残して、行けるものではない。
「今、逃げねば、もう次の機会はない。さあ、早く」
耳許で囁かれ、お亀は唇を固く噛みしめる。
その眼は、大粒の涙が浮かんでいた。
小五郎が手を引いても、お亀は動かない。
お亀は、のたうち回る嘉利を見ながら涙を流して立ち尽くしている。
時ここに至り、お亀にも漸く状況が理解できた。
嘉利は、お香代の亡霊を視ているのだ。
いや、亡霊なぞというものがこの世に現実に存在するのかどうか判らない。しかし、嘉利に犯され、身ごもった末に非業の死を遂げたお香代の怨念が今、ここにかつての姿を取り戻し現れたのだとしても、いささかの不思議はないだろう。
もしかしたら、嘉利が見ているのは、彼自身の過去に犯した罪への呵責にすぎないのかもしれない。これまで己れが犯してきた悪行の数々への無意識の怖れと悔恨がお香代の幻影という形となって見えているだけなのかもしれない。
いずれにせよ、嘉利についに仏罰が下されたのだ。
と、強い力で手を引かれ、お亀は我に返った。
振り向けば、そこに小五郎が立っていた。
「お亀どの、行きましょう」
「小五郎どの、どうしてここに」
お亀の顔に愕きがひろがる。
「話は後でもできる。今はここを逃れることが肝要です」
でも、と、お亀は、背後を見た。
相変わらず頭を抱えて、もんどりうつ嘉利がいる。こんな状態の男を一人残して、行けるものではない。
「今、逃げねば、もう次の機会はない。さあ、早く」
耳許で囁かれ、お亀は唇を固く噛みしめる。
その眼は、大粒の涙が浮かんでいた。
小五郎が手を引いても、お亀は動かない。
お亀は、のたうち回る嘉利を見ながら涙を流して立ち尽くしている。