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第6章 動揺
副長にじっと見つめられる。
今まで任務を通して関わり合うことはたくさんあったけれど、こんなにまじまじと向かい合ったことがあっただろうか。

「…あ、あの…?」

するとフッと笑みをにじませ、

「山崎、さくらを『安全に』四季まで送ってくれ」

と、念を押されるように言われた。

『安全』…

冷や汗が背中を伝う。
やはり副長は気付いていたんだ。
それで手出しするなと遠回しに伝えているんだ。

山崎の動揺を悟ったかのように、

「…頼んだぞ」

ポンと肩に手を置いてすれ違うようにして去っていった。
肩に置かれた手が熱く、物凄く重いものがのし掛かったように感じた。

「…。」

ギシギシと、廊下を遠ざかる音が妙に頭の中に響く。
振り返り、背中を目で追いたかったが、振り返ることができなかった。

激しく鳴り響く鼓動を落ち着かせるように、縁側に腰を下ろす。
副長は怒っているだろうか。
きっとそうだが、敢えてハッキリと言ってこないことが逆に、さくらさんを絶対に渡さないと確固たる自信を感じる。

…俺はどうやってもあの人には敵わない…

目を瞑り、深く息を吐き出した。





ーーー…

遠く響く虫の音を聞きながらじっと夜空を見上げていると、少しだけ開いている襖の奥から僅かに声が聞こえてきた。

「…ん…」

ハッと弾かれたように振り向く。

「さくらさん…」

襖に近寄り、そっと声をかける。
さくらさんは褥から身を起こし、胸に手を当てて戸惑っている。
きっと、自分が着物をきちんと着ていることを不思議に思っているのだろう。

「…山崎さん」

いつもよりも低く、少しだけ掠れた声で呼ばれて、ヤマザキの心臓は波打った。
先程の甘やかな声が脳裏によぎる。
さくらさんは、まだ少しだけ頰が染まったままで、潤んだ目でこちらを見ている。

「山崎さん?」

「…っ」

いつの間にか山崎の頰も赤く染まっていた。

「…っ。副長が…さくらさんが目覚めたら四季まで送っていくようにと」

副長の名を出すと、さくらさんは途端に照れたようにさらに頰を赤くさせ、身を縮こまらせる。

「はっ…はい。少しだけ廊下で待っていてください。」

僅かな音をさせて、帰る支度を整えているのだろう。

どんな顔をして四季まで送り届ければいいのだろうと、山崎は廊下で途方にくれるのだった。
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