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Love adventure
第37章 惑わすBEAT⑤
 アンコールをしない事で有名なBEATSだが、その夜は異例のダブルアンコールをやり、客は大喜びだ。
 しかし、終わりが近づくにつれ寂しい気持ちの方が強くなる。
 今日こうして同じ空間で音楽で繋がっても、夢の時間が終われば皆自分の現実に帰らなくてはならない。
 最後のバラードが演奏されている時、つい大きく溜息を吐いてしまった。
 また稲川と視線が合う。
 あぐりは、泣きたくなるほどの昂揚感と優越感、そして沸き上がる『好き』という気持ちに酔ってしまう。
 ーーこの後、ひとりで誰もいない家に帰るのか……
 と考えただけで鬱な色で自分が染まっていく様な気がする。
 金色のライトを浴びた稲川の笑顔は、テレビや雑誌で見るよりも輝いて、自分と視線を合わせたその表情は今まで知らなかった彼の一面を垣間見たような気がしていた。
 華麗なアルぺジオをギターが奏で、静かな余韻の音を残しラストナンバーが終わった。
 泣き声混じりの絶叫と声援が起こる。
 稲川はタオルで汗を拭い眩しい笑顔を見せた。
 それだけで、又会場に熱狂と溜息が巻き起こる。

「みんな……今日は本当にありがとう!まだまだBEATS、これから大きくなれるように頑張ります!
 終わっちゃうのが寂しいなあ……帰りたくないなあ……」

『キャー!』
『帰らないでー!』
 
 女の子達が口々に絶叫する。



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