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第66章 Marry　Me①

　会長は、結婚の対価としてバンドメンバーの生活の保障とBEATSの盛大なキャンペーンを話に出した。
　稲川の窮状を知った上で会長も打診してきたのだ。
　もう、意地やプライドに拘っている場合ではない。
　行き詰まっていた稲川は二つ返事で受け入れた。
　愛していない女との結婚は、自分の心を悪魔に売り渡すような行為だと思っていたが、会長の娘は気心が優しく、本気で稲川の事を愛していた。
　多忙で荒さんでいくばかりだった心は、安定した結婚生活を送るうちにみるみる溶かされていった。
　激しい愛情はなかったが、稲川は妻を大切に思っていた。
　会社は稲川の甘いルックスを生かし、そのミステリアスな雰囲気を強調しながら盛大に売り出した。
　もとより実力のあるバンドだったが、それだけでは受け入れられない。
　やはり、売り方なのだ。
　そしてそれにはやはり資本力が不可欠。
　大手のフェーマスレコーズのキャンペーンは効果がてきめんにあらわれ、BEATSはスターダムにのしあがった。