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第69章 Marry　Me④

｢荷物を取りに来たの……帰るから｣

　野村が目を見開く。

「帰るって……」
｢稲川さんと別れた｣
｢――あぐり｣

　彼から逃げるように、あぐりは後ずさる。

｢野村君、もう止めようよ｣
｢何故？｣

　野村も一歩ずつ近づいた。

｢何でって……わかるじゃない……私と付き合ったっていい事ないし……｣
｢それは俺が決める事だし｣
｢私……もう不倫とかっ……疲れたし｣
｢だから清く正しく生きますっ、て？｣

　後ずさるあぐりは、つまづき転びそうになるが、素早く抱き留められた。
　あぐりの大きな瞳は溢れそうになっている。
　瞬きしたら決壊しそうだ。

｢私……離婚しないし……出来ないからっ……｣
｢いいよ……それでも｣

　野村の大きな掌が頬を撫でる。

｢いやいやいや、良くないでしょっ！？｣
｢俺が良いって言ったらイイの！｣