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第71章 対決前夜～智也

｢あれには驚いたよ｣
｢す、すいません……｣

　割烹料理屋の個室で、智也はカナのグラスにビールを注ぐ。
　カナは恐縮して頭を下げ、智也のグラスにビールを注ぎかえした。
　カナは智也とふたりだけで話すことはおろか、こうして食事に来るなど初めてで、口から内臓全てが出てきそうに緊張していた。
　智也は端正な口元を歪めて笑っている。

｢昼間のワイドショーでもあの啖呵を放送するし……
　夜のニュースでも映したし……翌日の朝の情報番組でも東野さんの怒りまくった顔がアップで……ぷぷっ｣
｢あああ！もう言わないで下さい！｣

　カナはいたたまれずに下を向いた。
　ほなみの騒動が起きてから、智也は個人的にカナに頼み事をするようになった。
　あの啖呵が気に入ったらしいのだ。

(……何だか恥ずかしい)
　
　カナは手元のおしぼりを捩ったり広げたり、丸めてみたりしながら所在無げにしていた。