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Love adventure
第82章 BIG EGG
「急げっ急げ!」
あぐりは、地下鉄を丸の内で降り、髪を靡かせダッシュする。
仕事の打ち合わせが予定より長引いてしまった。
今日は、クレッシェンドの東京ドーム公演。
五月に日比谷野音でBEATSとのライブをする予定だったが、急速する人気上昇で、急遽六月のドーム公演に変更になった。
「なんとか開場前には楽屋に寄れるわね……」
走るのを止めて、歩きながら息を整える。
あぐりは、ヘアメイクアーティストの専門学校に通いながら、志村プロデューサーの付き人の仕事をしていた。
雑用から事務、志村の身の回りの世話など、毎日目まぐるしく過ぎていく。
夫からようやく離婚届が返送されてきた時には、志村も大喜びして盛大に事務所をあげてお祝いしてくれたのだが、あぐりは内心恥ずかしく
(やめて――!)と困惑していた。
だが志村の気取らない人柄や、腫れ物に触るような扱いを一切せずに、あくまで一人前のスタッフとして接してくる態度にあぐりは感謝し、また救われていた。
普段はおちゃらけた態度だが、プロデューサーとしての嗅覚と手腕は素晴らしく、側で見ているあぐりはただ驚嘆するしかなかった。
男性だが、同性のように付き合え るのもまた良い所だった。
一緒に暮らしているが、勿論そんな雰囲気になる事はない。
「本当にゲイなんだなあ……なんか残念だわ。ちっ」
会場入りし楽屋へ向かう廊下で、つい口に出してしまう。